放射線治療の歴史

History of radiotherapy

外部照射はどのように進化したのか?

外部照射の歴史のうち、その1つは物理的線量分布の改善の歴史でもあります。
表1をご覧ください。

表1 外部放射線治療の歴史
物理的線量分布の改善 異なる生物学的効果を有する
放射線の使用
ガンマ線 テレコバルト
X線 コンピュータ以前 速中性子線
3次元放射線治療(3DCRT)
強度変調放射線治療(IMRT)
陽子線 3次元陽子線治療(3DCPT) 炭素線
強度変調陽子線治療(IMPT)

ガンマ線、X線、陽子線は生物学的には同じ効果を有する放射線です。抗がん剤で例えると同じ抗がん剤です。よって、いかにがんに放射線を集中させ、周囲の正常細胞の放射線量を少なくするかを目標として進化してきました。その物理的性質の優位性をもってガンマ線からX線へ、またX線ではコンピュータを駆使することによりがんに放射線を集中できるようになりました。現在保険適応になっている最もすぐれたX線治療は強度変調放射線治療(IMRT)でありX線治療の完成型といわれています。しかしながら放射線治療の原理のところでお話したように、X線の物理性質は外部照射には向きません。このIMRTを超える治療として外部照射をおこなう上ですぐれた物理性質をもつ陽子線治療は期待されています。放射線治療が手術療法や化学療法と異なるところは、実際に患者さまに放射線を照射する前にコンピュータを使ってどのように放射線が照射するか計算できることです。CTシミュレーションといいますが、放射線治療と同じ状態でCT画像を撮影しIMRTでおこなった場合、陽子線を使用した場合などさまざまな線量分布をコンピュータで作成できます。この計算結果をみるとどちらがどのくらい優れているか判定可能です。例として前立腺がんの線量分布を提示しますのでご覧ください(図1)。当院ではX線治療の最もすぐれた照射法であるIMRTと陽子線治療の両方の線量分布を作成していますので陽子線治療のメリットが具体的にわかります。

前立腺がんの陽子線治療とIMRTの線量分布
図1 前立腺がんの陽子線治療とIMRTの線量分布

一方別の取り組みとして、ガンマ線やX線とは異なる生物学的効果をもつ高LET放射線である速中性子線や炭素線も使用されてきました。抗がん剤で例えると新しい別の種類の抗がん剤の使用になるかと思います。抗がん剤と同じように、新しい抗がん剤は標準治療の抗がん剤とのランダム化比較試験によってその効果や有害事象の差を調べることになります。残念ながら、速中性子線はX線とのランダム化比較試験で優位性を示すことができず標準治療になれませんでした。しかし、現在同じ高LET放射線でかつ物理的線量分布にも優れている炭素線が注目されて期待されています。

外部放射線治療の治療回数はどのように決まるのか?

もう一つの歴史的な取り組みとして、線量分割の変更があります。患者さまにとっても治療施設にとっても治療回数が少なくなることは効率もよく利便性も向上し良いことばかりなのですが、実際には長期の通院が必要となっております。これは、放射線生物学的に1回線量を少なくし分割回数を多くする方が、有害事象をおこすことなく治癒する確率を上げる最もよい方法であることがわかっているからです。よって治療期間を短縮することはリスクを伴いますので慎重に検討されます。一般的には、ランダム化比較試験をおこなって同じ効果が得られるか有害事象が増えないかを慎重に確認します。これらが確認されたのちに初めて新しい線量分割が標準治療のひとつとして認められます。抗がん剤で例えると投与方法を変更することになるかと思います。同じ抗がん剤であっても投与方法を変更すると効果や有害事象が変わる可能性があるため、違う種類の抗がん剤の場合と同じようにランダム化比較試験でその有効性と安全性を確認する必要があります。

前立腺がんで一例をみてみましょう。前立腺がんは長い間約8週間近くかかる治療期間が標準治療でした。2016年にLancet OncologyにCHHiP trialの結果が報告されました。このトライアルは2002年から2011まで約3000人の前立腺がんの患者さまが参加され74Gy/37分割の通常の放射線治療と60Gy/30分割または57Gy/29分割の短期間の放射線治療の効果と有害事象を検討するランダム化比較試験です。結果は、標準治療である74Gy/37分割と比較して短期照射である60Gy/20分割は治療効果や有害事象の確率のどちらも劣らないことが判明したため、標準治療の一つとして推奨されました。このように長期にわたり多くの患者さまのご協力のもと少しずつではありますが、短期照射の適応は徐々に拡大しています。しかしながら、まだ多くの疾患で長期間の通院を要しご不便をおかけするかと思います。やはり最優先すべきはその安全性であり長い期間使用されてきた線量分割は安全性が確認されております。分割回数を変更していくのは時間がかかることであることをご理解ください。