当院での治療について

Treatment at our hospital

陽子線治療は科学技術を用いたがん治療法の一つです。陽子線治療は、体内のがん(癌 腫、肉腫などの総称)細胞に陽子線を照射して増殖を止める、放射線治療法のひとつです。がん細胞の周囲にある臓器などを傷めるリスクが少ないのが特徴で、これまでのX線やガンマ線を用いる放射線治療では治療が困難であった疾患にも、すぐれた効果が期待されています。がん治療の選択肢のひとつとして陽子線治療の適応を検討することは、これからのがん治療を考える上で大きな意味を持つことになるでしょう。

陽子線治療とは?

陽子線は、粒子線の一種です。粒子線とは、中性子、陽子、炭素イオンなどの粒子の流れです。当院で利用するのは陽子線です。陽子は水素の原子核のことで、プラスの電気を帯びた粒子です。

陽子線治療が有効な代表的な疾患は、前立腺がん・肺がん・肝がん・頭蓋底腫瘍・頭頚部腫瘍(副鼻腔がんなど)などの塊状の腫瘍です。

水素原子から抽出した陽子を「シンクロトロン」という大型の装置を用いて真空中で光速の70%近くにまで一気に加速すると、からだの中への透過力が大きく、がん細胞を破壊する力をもつ陽子線となります。

水素原子モデル

この陽子線をがん細胞に照射して集中的にぶつけ、がん細胞を攻撃して壊します。陽子線の特性を利用して患部に狙い通りにビームを当てることが可能なので、より広い範囲に照射する従来の放射線治療に比べて、患部以外への影響を軽減することができます。

当院での陽子線治療の特徴

ラスタースキャニング法による陽子線治療

当院では2019年1月より、スキャニング法と呼ばれる照射技術を採用しています。

「陽子線治療」=「ピンポイントな照射」というと、細胞程度のサイズのビームで狙い撃ちをしているように思われがちですが、そうではありません。加速装置で作られる陽子線のビーム径は数ミリ程度で既に細胞の100倍程度の太さです。これを当てるべき範囲(腫瘍)まで拡大して照射しますので、がん細胞を狙い撃ちにしているわけではありません。

通常の細胞とがん細胞では、がん細胞の方がより放射線によるダメージを強く受けるため、通常の細胞が耐えられる程度のダメージに抑えることで、正常な組織(通常細胞)を含む広い範囲を照射しても、副作用を抑えてがんを殺すことが可能となりますのでご安心ください。

ビームを拡大する技術には様々な手法があり、従来では一般的に物に衝突させることでビームを拡散させて、そこから腫瘍に合わせてビームを切り抜いて治療を行っていました(ブロードビーム法)。

一方、当院で行っているスキャニング法では、腫瘍に向かって細いビームのまま照射し位置を移動させながら腫瘍全体を塗りつぶしていきます。複雑な形でも無駄なく照射が行えるため、身体への被ばくが少なく腫瘍にしっかりとビームが当たります。この方法では無駄に拡散させていないためビームの利用効率が高く、照射時間も短くなります。また、陽子線が照射されてしまう物も少なくなるため、放射性廃棄物を削減できるだけでなく、二次発がんが懸念される中性子線の発生も低下します。国内でも複数の施設がこの手法を導入しており、今後世界的にも普及すると言われています。

このスキャニング法にもいくつか種類があり、点描画のように1点ずつ照射・停止を繰り返すものをスポットスキャニング、ビームを止めずに照射しながら動かし続けるものをラインスキャニングと呼んでいます。当院が導入したラスタースキャニング法はその中間に相当するもので、スポットスキャニングのように1点ずつ照射制御をしながら、ラインスキャニングのように停止させずに照射し続ける方法です。これによって精度を担保しながら照射時間を短くすることが期待できます。

モンテカルロ法を用いたロバストプランニングによる治療計画

当院では2020年4月より、治療計画でロバストプランニングという手法を導入しています。

この聞きなれない「ロバスト」とは、「頑健なこと。がっしりしていること。また確固としていること。」という意味です。

放射線治療は日々同じ部位に照射をし続けることでがんを治す治療法です。しかし、機械的な若干の誤差が生じるだけでなく、お身体の中の無意識な動きや位置のずれなどが日々生じているため、完璧に同じ位置に照射し続けることはできません。そのため従来では、この誤差を見積もって腫瘍よりも少し広い範囲を設定して照射していました。

新しい技術であるロバストプランニングでは、検査時に複数回取得したお身体のデータからコンピュータ上で患者様毎の誤差を統計的に予測し、照射位置がずれてしまった場合でも予定通りの線量分布を維持できるような、より無駄なく変化に強い(ロバストな)計画を作成することが可能となります。これまでは患者様に寄らず一律に広い範囲を設定していたものが、オーダーメイドの範囲設定になることで、腫瘍へしっかりと照射し、かつ臓器を守ることが両立しやすくなりました。これが「ロバスト」な治療計画です。

更に、腫瘍の形に合わせてよりシャープな分布をつくるために、当院ではお身体に近接する位置に可動式の金属製の絞り(マルチリーフコリメータ:MLC)も利用しています。1枚が3.75mm厚のタングステン製プレートが2枚一組で54組並んでおり、それぞれの組が自由に開閉できるため、照射したい形を自由に成型することが可能です。

このMLCの利用によってより鋭いビームにすることが出来る反面、金属によってビームの挙動が大きく変わるため、従来の計算手法ではコンピュータ上でのシミュレーションが非常に難しくなってしまいます。そのため、当院ではモンテカルロ法と呼ばれる計算手法を用いており、より現実に近い結果を得られることが期待できます。

まとめ

当院ではラスタースキャニング法によって効率的かつ高精度に陽子線を照射することができます。そして患者様毎に最適なロバスト治療計画を立案し、MLCを用いても計算精度を維持できるモンテカルロ法でシミュレーションを行うことで、安心して治療をお受けいただけます

強度変調放射線治療(IMRT)とは

X線を用いた放射線治療法とは、X線をがん細胞に照射し、がん細胞の増殖を抑制する治療法です。X線の照射により、正常な細胞も損傷を受けるため、がん細胞に集中して正確に照射し、正常な細胞の損傷を最小限に抑える強度変調放射線治療(IMRT)などが普及しています。

従来のX線治療では、「対向二門照射」で2方向からのX線で腫瘍を挟み打ちする方法などが一般的でした。病巣に照射するには確実ですが同時に正常組織にも多く照射され、X線の線量を上げることができませんでした。近年技術が進歩し、病巣を確実に狙って照射し、周りの正常な細胞の損傷を最小限に抑えることができる新しい治療法として、IMRTが登場しました。

IMRTは、複雑な形をした病巣を得意としています。コンピュータにより、シミュレーションされ、多方向から照射されるX線の量を調整することができます。多くX線を照射したい部分、少量でよい部分、照射を避けたい部分を詳細に設定できます。これにより、変形した病巣に対しても正確に、かつ周りの正常な細胞を最小限に抑えた治療が可能になりました。2010年4月から固形がんすべてに保険適応となりました。

IMRTは、多方向から強弱をつけたX線をがん腫瘍部分に集中して照射することにより、従来のX線治療と比較して、がん腫瘍部分に多くの放射線を照射することができるようになったため、がんの治癒率が向上し、副作用は軽減されています。

前立腺がんでは、前立腺に照射する線量を上げれば治癒率が向上することがわかっています。従来の放射線治療では、前立腺周辺の直腸や膀胱といった臓器に多くのX線が照射されることにより、前立腺に照射できる線量は限りがありました。IMRTでは前立腺に集中して適切なX線を照射することができるため、がんの治癒率の向上と直腸障害などの副作用の軽減が見込めます。

従来型照射
従来型照射
ビームが均一なので、照射角度によっては、正常組織も腫瘍と同程度の放射線量を受けてしまう。
IMRT
IMRT
ビーム内に強い部分と弱い部分があるため、腫瘍には高線量、正常組織には低線量で照射できる。

トモセラピーとは

トモセラピーとは、強度変調放射線治療(IMRT)の専用機として開発された小型のリニアックとCTスキャナーと放射線治療システムを統合したシステムです。CTで用いるドーナツ型の輪(ガントリー)の中で、画像を取得することによりターゲット位置合わせの精度を向上させます。これにより広範囲かつ線量集中度の高いIMRT・画像誘導放射線治療(IGRT)が実施可能となったX線治療装置です。

トモセラピーシステムによる放射線治療は、高度なマルチリーフコリメータ(MLC)により支えられています。MLCを高速開閉させることで放射線を照射します、その動きのパターンは治療実施前に正確に計算され、照射口が患者の周囲を360度連続的に回転させながら治療寝台を移動させ、ヘリカル照射(ヘリカル照射とは、人体をらせん状に照射する技術です。)を行います。X線を腫瘍に集中させる一方で、重要臓器を避けるように照射を行います。最大照射領域は40cm(径) × 135cmに及びます。長いターゲットへの照射や複数のターゲットへの照射が1回のセットアップで可能です。

トモセラピー治療の様子(※画像は準備中です)