早すぎはしない糖尿病治療  
日本糖尿病学会専門医・指導医 中島弘二


 糖尿病は慢性疾患でゆっくり進行するから急ぐ必要は無い、暇になったら病院に行こうと言う考え方は間違いです。糖尿病こそ早期発見、早期治療が大切です。初期の場合、痛いとか苦しいとかの症状が無いからどうしても病気であるという気持ちになれず、検査治療しないで、ついつい病気の進行をゆるしてしまいます。合併症が出てくるだけではなく、膵臓が疲弊して糖尿病がより重症化します。目にくる、腎臓にくる、神経にくるという糖尿病特有の三大合併症だけではなく、動脈硬化が進行します。三大合併症は糖尿病発症後に進行しますが、動脈硬化は糖尿病予備軍と言われる境界型の時期から進行します。動脈硬化は心筋梗塞、脳梗塞を引き起こします。これらは死につながる重症疾患です。最近動脈硬化症の予防、治療が可能になってきました。糖尿病はどうせ治らないからとあきらめてはなりません。いつでも遅すぎはしないのです。早期であろうと進行した状態であろうと病状にあわせた最適な治療をすべきです。

 親や親類が糖尿病だから自分も糖尿病になるだろう、その時になってきちんと治療する覚悟はしているので今は発症していないし、今の内に思う存分好きなものを食べ飲んでおきたい。これでは早く病気になりたいと言っているようなものです。
会社の検診でひっかかって、糖尿病の精密検査を受けるように言われた。精密検査を受けたら境界型で糖尿病ではない、予備軍だと言われた。
予備軍は一生予備軍でいるのか、正常から糖尿病に移行する一時期であるのか個人差があり不明です。予備軍だと思っていたのに糖尿病になっていたという患者さんを多く見ます。また予備軍の時期から動脈硬化が進行します。そのため予備軍が治療の対象になってきました。

  職場での半強制的な検診が無い専業主婦の方は糖尿病の診断が遅れることが多い。食欲旺盛であるから健康であると信じ、市民検診を受ける気にもならず、10年近く病院に行ったことがない方で目が見えにくいため眼科を受診したら、血液検査も尿検査もしないで、眼科医が眼底を診ただけで糖尿病と診断し内科に紹介された患者さんも希ではありません。

  たまたま交通事故で骨折して入院し、初期の糖尿病が発見され、足をつっている間、徹底的に糖尿病教育とインスリン治療を行い、生活習慣を改め、糖尿病と診断がつかないくらい良くなっている患者さんも希ではありません。膵臓が疲弊する前に見つかり生活習慣を改めることにより膵臓の機能が回復しインスリン抵抗性も改善したと考えられます。ごく初期の糖尿病がこのように治癒したと判断できる例があることと、糖尿病になる体質を持って生まれた人でも糖尿病にならない人もいます。それを突き詰めていけば糖尿病の発症予防の可能性が出てきます。糖尿病になりやすい遺伝的素因の診断と発症予防が大きなテーマです。

  戦後間もない頃日本の糖尿病人口は40万人と言われて、現在では750万人とも言われています。日本人の遺伝的素因は変わりません。運動不足と過食の生活習慣になっていったと考えられます。インディアンの一部族は遺伝的背景が同じでアメリカとメキシコに分かれて住んでいますが、アメリカでは半分近くが糖尿病でメキシコでは糖尿病の患者はほとんどいないそうです。インディアンでは地理的生活習慣の違いで、日本人では時間を越えて糖尿病発症の実験をしたことになります。米、魚を中心とした伝統的な和食は世界に誇るべき健康食です。和食を基本とした我が国の糖尿病食はまさに健康食そのものです。詐欺まがいの「健康食品」を使用して取り返しのつかない失敗をした患者さんは多い。悲しくなります。間違った健康食品のセールスから如何に患者様を守るかが大切なテーマです。患者様、ご家族の皆様に糖尿病について正しい知識を持って頂きたい。

  沖縄県が長寿県のトップではなくなりました。アメリカの食習慣を受けた世代が加齢と共に早死にし始めたからです。一方日本に習えとアメリカでは健康食ブームで血液のコレステロールが低下し、反対に日本人では上昇しアメリカを追い抜いたようです。世界の長寿国日本も我々の世代からそうでは無くなるかもしれません。

  最初の治療で良くなったといわれ、患者も医師も安心して「安定しているから薬だけちょうだい」で済ましてしまう。検査をしないで薬だけは飲んでいる患者さんはいつの間にか薬が効かなくなって糖尿病が悪くなっていることを知らない。そのうち薬も飲まなくなり、飲まなくてもすぐに症状は出ません。糖尿病は検査の病気です。油断大敵、継続することが糖尿病の治療の基本です。すなわち習慣づけることです。早すぎはしない、遅すぎもしない。